【後編】発達障害とは?種類は「知能」「制御力」「社会性」でとらえる ― 心理検査方法と活かし方―


前回は、発達障害、もとい発達の偏りは「知能」「制御力」「社会性」の3軸で立体的に捉えることが大事だと話しました。

この記事では、それぞれの3軸をどのように測定するかを簡単にご紹介します。

沢 哲司 (医学博士/臨床心理士/公認心理師)
神経心理学的発達アセスメントで医学博士を取得し、自身も発達障害(ADHD:注意欠如多動症と、LD:学習障害)の診断を受けている。
専門的な知見と当事者目線の両面を生かし、クライエントの苦手なことを無理に矯正するのではなく、能力の偏りを自分で理解し、活用できるようになるための、心理療法を得意とする。
北里大学を始め5つの大学院・大学で大学講師を歴任。述べ500名以上の学生に臨床心理を教える。
発達障害の種類は、知的障害、ADHD、ASDではなく、「知能」「制御力」「社会性」で捉える

前編でも取り上げた通り、「落ち着きのなさ」について引き続き考えてみたいと思います。
ひとくちに落ち着きがないといっても、知能の低さによるものか、社会性の低さによるものか、制御力の低さによるものかでは対処が異なるというお話をしましたね。
知的障害やLD、ASD、ADHD・・診断名は色々あるけれど
ここで、理解のために医学的診断という視点で分類の話をしますと、全体的に知能が低い人は知的障害という診断カテゴリーに分類されます。
部分的に算数だけ苦手とか文字が苦手とかは、学習障害(LD)に分類されます。
社会性が低い人は汎用性発達障害。自閉スペクトラム症、ASDという分類です。以前はアスペルガー症候群とも呼ばれていましたね。
制御力が低い人は、注意欠如・多動性障害、ADHDという分類です。
ただ、何度も強調しますが、支援を受けるための事務手続きや情報を共有・整理する上で診断は必要ですが、診断自体は重要ではなく、あくまで「知能」「社会性」「制御力」この3軸のスペクトラム(連続体)上でどのようなバランスになっているか、が重要です。
もっともっと解像度を上げて、自分の特徴を知ることが大事なのです。あの人は「○○障害だから△△よね!」って分類・説明することは、「あの人は血液型A型だから几帳面よね!」って分類・説明するくらいざっくりとして怪しい分類と思っていいと思います。
①知能を測る検査 WISCとWAIS
知能にも言語・知覚などの種類がある
まずは知能検査について解説します。
知能とひとくちに言っても、色々な側面があります。耳で聞いて合理的に処理する力が高いのか、目で見て合理的に処理する力が高いのかとか。
WISCやWAISという代表的な知能検査では知能を4種に分類します。
ちなみにWISCは子ども版、WAISは大人版です。
知能検査で測る知能4種類
①言葉の理解力。②視覚的な理解力。③ワーキングメモリ④処理速度の4種です。
①言語理解は、単語のボキャブラリー数を測るとか、りんごとバナナの共通点はなんですかといった抽象概念の理解です。
②知覚統合は、積み木を組み立てるテストとか、ウォーリーを探せみたいな絵を見て情報を見つけ出すテストとかです。
③ワーキングメモリは、知能の別の側面で、一度にどれくらい処理できるかという、CPUに対してのメモリーみたいなもので、作動記憶ともよばれます。耳から数を聞いて何桁まで暗算できますかというようなものです。
④処理速度は、目で見えたりしたものを事務的にぱっぱっと処理していくような力のことです。

みなさんも心理検査をすると、自分の得意不得意がなにか、どういう風に勉強をすれば良いかなどが、きちんとわかるようになります。それだけで検査をする価値がありますよ。
② 制御力を測る検査
制御力にも4つの機能があります。
①維持 どれくらい制御力を維持できるか。
②抑制 衝動を抑える力。お手つきしない力。
③選択 たくさんの情報の中から情報をみつけだす力。
④分配 複数の情報に注意するための力。車の運転をしている時に重要な力。
制御力が低い人は、会ってみればだいたいわかるんですが、検査としてはIVA-CPTというテストがあります。
どんなテストかというと、「1」が画像または音で発されたらクリックする、「2」が画像または音で発されたらクリックしてはいけないというテストです。これが15分間続くので、子どもからは地獄の検査といわれてます(笑)。
この検査では、制御力のうちの「①維持」と「②抑制」を測ることができます。

まず、「①維持」。どれくらい制御力を維持できるかですね。最初に「1」が発された時にクリックするスピードと最後2分間くらいのスピードを比較する。「維持」が弱い方は、ずっとこのテストをしているとだんだん反応が遅くなります。
なおかつ、目の維持が強いのか、耳の維持が強いのかということもわかります。目の維持が強い方は視覚的に情報をとると力を発揮できたりします。
次は、「②抑制」。「抑制」は、「2」と見えたり聞こえたりした時にきちんと踏みとどまれているか、お手つきしていないか、ということです。
ついついカッとして手が出るような人は、抑制が低い場合があります。お酒を飲むと抑制が下がるから突発的な行動をするなどもあります。その中でも目の抑制が低いのか耳の抑制が低いのかがあります。
研究でも示されている通り、子どもは目の抑制が低い傾向にあります。だから、子どもがおもちゃ売り場で欲しい欲しいと言っていても、抑制するのは難しいんですよ。おもちゃが見えないところに連れて行く必要があるんですね。
検査の際も、おもちゃなどの見えない殺風景な部屋で検査をして、信頼性を高めるようにします。

制御力の低さ、ADHDには薬が効く??
「制御力の低さ」といっても、上記4分類に少なくとも解像度をあげることができます。医師と連携するときも、どのタイプなのかという心理検査の情報は薬を判断する一助になっています。なので医学的支援の中でもきちんと心理アセスメントすることが大事です。
薬(コンサータ)が効いた架空事例
架空ですが、中学3年生男児の話を例にしていみます。彼はとにかく「維持」が弱かった。どれくらい弱いかというと、先ほどのIVA₋CPT検査はできないし、問題文を読んで読み終わった後に寝てる。たまにいます。
そういう場合、「とにかく寝ちゃうんです」という主訴でくることが多いですかね。
検査の結果と医師の判断から、その子にコンサータという薬が処方され、「眠くならない!」と変化があり、勉強にも集中できるようになって成績も上がりました。
ただし、同じように「寝ちゃう」という子に対して、みんな上記と同じように支援してもうまくいきません。たとえば、寝ちゃう理由が社会性の低さや知能の低さである人に、コンサータを処方しても意味がありません。だから適切なアセスメントが大事なんです。
③社会性を測る検査
社会性とは、当たり前がわかるかどうか、非合理的なことが理解できるかどうかということです。これも会ってみればわかることではありますが、社会性を測るテストがあります。ストーリーテストⅠといいます。

例として、エレベーターに乗りました。エレベーターには男性が乗っていました。「今日はいい天気ですね」と男性に言いました。
これはおかしいですか、おかしくないですか。これはおかしくないとわかりますよね。
このようなことは、どこかで習うものではないですよね。直感でおかしくないってわかりますね。
でも、社会性が低い人は、これがおかしいと感じます。なぜエレベーターに乗ってるのに天気がわかるんだと思うわけですね。
さらに、エレベーターの鏡でその人が自分の髪の毛が逆立ってることに気づいたので、乗り合わせた男性に「すみませんがちょっとくしを貸してもらえませんか」って聞いたとします。これを社会性が低い人に聞くと、おかしくないっていうんですよ、合理的なので。
でも、僕らからするとおかしいですよね。ではなんでおかしいかといわれると、なかなか説明が難しい。当たり前で直感だから。社会性が低い人に言わせると手の方が細菌が多いからボールペンの貸し借りの方が汚くて、くしはそうでもないなどと仰るんですね。
知能至上主義は適切か?
ちなみに、認知心理学者の知人とも先日話したのですが、今の日本だと、どういうわけか知能万歳主義になっているように感じます。
とにかくWISCやWAIS(知能検査)でなんでも判断しようとするところがまだまだ多いのが実情です。また、WISCだけで発達障害を決めつけられる事例もよく耳にします。僕は、もっと心理士が医師と連携して診断の情報を提供する努力をすべきと思っています。
でもなかなか広まらない。だからこうして記事やYouTubeで発信しているわけです(笑)
「知能」「社会性」「制御力」が低いのはダメなこと?

もうひとつ知っておいて欲しいのは、全ては裏表だということです。
社会性が低いのはユニークだってことなんですよね。
制御力が低いのはいろんなことに気づけることなんですよ。一点に集中しないから。
知能が低いのは、打算的じゃないということなんです。
知能が低いダメな子と言われる子がいたんですけど、でも今まで聞いた中で一番素敵な感性を持っていると感じたのがその子だったんですね。
例えば友達と喧嘩しちゃいけない理由はなんですかと言われた時に、皆さんだったらなんて答えますか。その子は、心の中にお水があってそれが汚れるからっていったんですね。僕がいうと全然響かないと思うけど(笑)。
その子が人生をかけて言ってくれるから、ああそうだなあって思ったんですよね。すごく純粋で素朴な答えですよね。そういう側面がある。
知的に障害のある方が絵を描いて売れたりしますよね、そういう能力のある方もいる。(サヴァンとかって言われたりもするけど、僕はそういう専門用語は使わないようにしてます。)
先述の通り、保険適用や福祉支援をうけるためには、医学的診断によって症状を分類する必要があります。けれども僕は心理士で、支援のために軸をつかうんです。どこに分類されるかが重要なんじゃないんです。
知能も制御力も社会性も、スペクトラム(連続体)で、どういうバランスになっているかを捉えるのが、職人技になるわけですね。
心理検査を受けて、その結果に一喜一憂したり鵜呑みにするのではなくて、その結果をどう解釈するか、そこから自分が何を感じ何を考えたかが重要なんです。
機関によっては、検査をやって結果を出すだけで、フィードバックが乏しいところもあるそうです。自分が目が得意なのか耳が得意なのかを、自分で考えることが大事です。正解は自分の外にはなく、自分自身の内側にある。
発達についてもっと学びたい方向けYouTube
YouTubeでももっと詳しく解説しているので、ぜひそちらも参考にしてみてくださいね。
合理的配慮を知るための動画
まずこちらをご覧ください。「合理的配慮」についての動画です。
心の病気、心の正常と異常についてアニメーションを通じて学ぶ動画
次に、オリジナルキャラクター「ナンマンパン」による、心の正常・異常を理解するための動画をぜひご覧ください。シリーズで4本あります。
1/4 心の病気とは?心理/発達検査をする際の心構え「決めつけない」
2/4 心の病気とは?病理的基準から考える
3/4 心の病気とは? 適応的基準・価値的基準から考える
4/4 心の病気とは? 統計的基準から考える
ご自身の発達についてより理解を深めたい方は
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