心理学部・大学院に入って社会人が学べること

 10年近くこれまで社会人に大学・大学院で心理学を教えてきたました。社会人経験ある方が一念発起でわざわざ心理学を学びはじめた背景をお聞きするとその物語の数だけいつも感動します。しかし、見通しがつかないなかで「心理学」を学ぶということを決意に至るまでには、とまどいもあったという方が多いようです。
 そこで本記事では、『心理学部・大学院に入って社会人が学べること』をテーマに書きます。
 結論からいうと、

  • 今までの固定観念が崩れる
  • 受け入れないといけないことが見えてくる

です。この結論は、実際に社会人が心理学部で学んで体験した生の声です。簡潔によく表した表現といえます。他にも心理学部で学んだ感想を動画にまとめてありますので良ければご覧ください。

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目次

実際に社会人が心理学部で学んだ体験と声

動画では、「心理学は学べば学ぶほどよく分からない学問」というのが大方の意見だったのではないでしょうか。たしかに、心理学は学べば「分かる」という学問というより、「分からない」ということが分かる学問といえると私も考えています。心の複雑さに向き合うことは、今まで自分たちが当たり前と思っていたことから距離をとならければならないことでもありますし、心の多様性、可能性に謙虚さを持つということでもあります。

世の中には、~したら~になるという方法論的な心理学が出回っていますが、心理学はそのような方法論は学べないと考えていいと思います。人の心が読めるようになるというのもマスコミやエンターテイメントが流行らせている大きな誤解といっていいでしょう。

心の健康の領域である臨床心理学を応用したカウンセリングでも、困っている人にアドバイスをするわけではなく、別の心へのアプローチを学びます(詳細は別の記事を参考にしてください)。アドバイスは、~したら~になるという方法論に基づいておこなわれるものだからです。心は単純な方法論で取り扱えません。

よく、臨床心理学者として「先生、あの対応で私は良かったのでしょうか。」と方法論に基づいた質問を受けるのですが、簡単には答えられない質問です。臨床心理学は、一つの対応、心の1点をみるというより、対応までの流れ、つまり相手との歴史や関係性をみる学問だからです。ある時点での関係生によっては叱ることがうまくいっても、別の関係生では全く同じ言葉や行動で対応してもうまくいかないのが心です。その理由は、繰り返しになりますが、心は複雑なものだからです。Aの方法でBになるというものではなく、Aという刺激で、BにもCにも…Zにもなるというのが心理学で学べることです。

そうした意味で、複雑な心を学ぶほど、固定観念が崩れていくといえるでしょう。
そしてこれを読んでいる皆さんにとっても、心理学を学ぶと何かを「学べる」という固定観念は崩れはじめているのではないでしょうか。

心理学では、心に対する方法論ではなく姿勢を学ぶ

では、改めて心理学では何を学べるのでしょうか。
動画の中で何人かは、「(行動する)覚悟が決まる」、「仲間と出会える」ということを言っていました。
厳密にいえば、「学べること」ではありませんが、おそらく学び続ける姿勢や仲間(環境)と出会えるということでしょう。

社会人が心理学で学べる「こと」はない、というのは教員の立場からするとよく勉強した結果だといえますし、この曖昧な不安さに耐えられるかどうかが心理学を学び続けられる学生の重要な素質ともいえます。しかしそれでも心理学は、実社会で役立つ学問です。「想定外」だらけで答えのない心に対応をしてきた心理学は、地震やコロナ、戦争をはじめ「想定外」といわれることが多くなっている世の中への向き合い方を教えてくれる学問といえます。複雑性への方法を学ぶことではなく、複雑性への向き合い方を学ぶことができます。

世の中の問題が科学的な方法論だけで解決するという傲慢さから一度距離をおくと、謙虚に受け入れないといけないことが見えてきます。その謙虚さの中で複雑な心に向き合い続ける覚悟と仲間が心理学の学びにはあるのです。

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この記事を書いた人

沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師)のアバター 沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師) 医学博士/臨床心理士/公認心理師

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