心理カウンセラーの資格や独学、どれくらいでなれるの?

 メンタルヘルスの問題が注目されるたびに、心理カウンセラーを目指す人が増えています。ネットで検索すると、数ヶ月から早いと3日で心理カウンセラーになれるという広告が出回っています。それでは、3日や数ヶ月で心理カウンセラーになれるのでしょうか。本動画では公認心理師で臨床心理士の沢哲司監修の元、カウンセラーになるために必要な時間を考えてみます。
(本動画は上記サムネイルをクリックすると動画でもご覧いただけます)

解説者

沢 哲司 (医学博士/臨床心理士/公認心理師)

神経心理学的発達アセスメントで医学博士を取得し、自身も発達障害(ADHD:注意欠如多動症と、LD:学習障害)の診断を受けている。
専門的な知見と当事者目線の両面を生かし、クライエントの苦手なことを無理に矯正するのではなく、能力の偏りを自分で理解し、活用できるようになるための、心理療法を得意とする。
北里大学を始め5つの大学院・大学で大学講師を歴任。述べ500名以上の学生に臨床心理を教える。



目次

公認心理師という資格

 現在、心理学に関する専門知識と技術をもって心理支援にあたる国家資格は『公認心理師』があります。国家資格に裏付けられた一定の資質を備えた心理職の必要性から、2018年に第一回国家試験と合格者の資格登録がはじまりました。公認心理師の受験資格を得るためにはいくつかのルートがありますが、基本的には心理学部4年と心理系大学院2年を経て受験資格が得らます。その他のルートで受験資格を得る場合も、そのカリキュラムに準じているといえます。

 つまり、国家資格で規定された最低限の知識と技術を得るには6年かかるということです。

名称独占資格である公認心理師

 しかし、公認心理師という国家資格は、名称独占資格です。名称独占資格とは、資格を持っている人だけが、その名称を名乗れるという資格です。そのため、法的には、カウンセラーになるために必要な時間を一律に決めることはできないのです。名称独占資格は、その資格名が社会全体に知れ渡ることで一定の信頼を社会に浸透して意味が出てくるものです。

 たとえば、栄養士などは名称独占の国家資格ですが、その資格を持っていることで私たちは安心してその専門性に関わる仕事を頼めます。しかし、先述したように2018年にはじまった公認心理師という資格は歴史が浅く、まだ制度や有資格者の質が安定しているとはいえず、社会への信頼を獲得しきれていないという課題があります。今後、公認心理師の資格保持者がその専門性を磨き、社会の中でブランド化させることによって実質的な「カウンセラーになるための期間」というものが社会的に認知されてくるといえるでしょう。ただし、繰り返しになりますが、名称独占資格は、仕事上でその名称を名乗れるにすぎないことから、公認心理師の資格を持っていなくても心理職として働くことに何ら法的な問題はありません。

 たとえば、有名ユーチューバー「ゆたぽん」のお父さんは、2022年現在、公認心理師の資格を持たずに心理カウンセラーとして活動しています。ご自身の経験や研修で培ったものもあると思いますが、社会的には「ゆたぽんのお父さん」、というブランドで信頼を得て仕事しているといえます。

 つまり、名称独占の公認心理師がまだそれほど社会的な効果を持っていない現状では、信頼を獲得できれば誰でも3日で心理カウンセラーになれますし、極端なことをいえば今日から心理支援を行えます。実際にどんな職業であっても人と関わる以上、自分の心をみつめながら相手の心に触れて心理支援をしているわけなので、広く捉えれば誰でも心理支援を仕事にしているといえます。そのことは、公認心理師が業務独占資格ではなく、名称独占資格である理由ともいえます。もし、その資格を持っている人だけが心理支援できることになったら、親や学校の先生は子どもの話をじっくり聞くことができなくなるかもしれません。

訓練「期間」の落とし穴

Google Docs
Post-Traumatic Stress Disorder.pdf

 ここまで、カリキュラムや法の観点から心理カウンセラーになれる「期間」を解説してきました。では、職業として心理支援を実践できるようになるまでには、どの期間が必要なのでしょうか。「実践」の仕方は人それぞれあるので、個人的な見解ですが、そもそも心理カウンセラーの訓練に「期間」は、なじみません。心は複雑なものなので、再現性が低いというところがポイントです。栄養なら一日に必要な物質やカロリーを計算しやすいと思いますが、教員や親が子どもを励まして心理支援すべき回数や方法は計算することができません。もし計算で人が幸せになることができるのなら、昔より今の方が人は幸せになっているはずです。また、技術高進国より先進国の方が幸せになっているはずです。しかし、そうともいいきれません。少し前に、「うつ病の人に『頑張って』といってはいけない」という言葉が流行りました。しかし、そんな単純な方法論でもないことがわかっています。そうした人と人が向き合うことが仕事になる心理カウンセリングの専門性とは終わりがない練達の世界です。終わりなき専門性を熟練し続ける世界でありながら、それ以上にその人が問われる世界です。いくら立派な資格や技術があったとしても、その人の人間性が伝わらないと相談や支援を受けようとは思わないでしょう。

 つまり、心理を仕事として志すと決意したときには「方法」や「マニュアル」的思考からはじまる「期間」という安心材料に偏りすぎてはいけないのです。初学者にとっては見通しつかない不安に陥る話というのも理解できます。しかし、知識や方法論を提供する安易な道に騙される前に、心の複雑さやそれに向き合う人間性を伝えてくれる師を見つける必要性があるのです。 料理でたとえるなら、心理支援で尊敬できる師ほど『料理法』は教えません。 その代わり、調理時間以上の時間をかけて毎回一緒に味を確かめてくれるものです。問うべきは、「期間」ではなく、自分が目の前の相手に責任をもって心理支援ができるかどうかなのです。考えが偏りそうになったとき、心理職は自分の心をみつめる訓練を受けます。なぜ期間にこだわって心理の仕事をやりたいか自分に問いかけます。現実的な問題もあるでしょうが、しっかり自分の心に問いかけると自分の課題がみえてくるはずです。そうした自分の中にある課題を見つめて支援をする姿勢こそ心理支援をプロとしてやることなのです。しかし、カウンセラーも含めて人間は弱いモノです。いいわけをつけて、甘い楽な道にどうしても無自覚に向ってしまうものです。そうした弱さに対して、公認心理師は、「職業倫理」にしばられることはポイントです。仕事をする上でのやっていいことといけないこと、その認識に従い行動することを自分としてではなく、資格協会としても、そして法的にも縛られていることは名称を独占すること以上の意味を利用者にもたらすものです。

公認心理師の職業倫理には「専門範囲の理解」というものがあります。それは、十分な教育・訓練によって身につけた「専門的な行動の範囲内」て、相手の健康と福祉に寄与する、という誓いです。何日でできるようになるか、ではなく、今、もしくはその研修で何が本当にできるようになるのかを問うのが大事な姿勢です。

方法や効率、一見するとキラキラしている世界に悩みを抱えるのが現代です。心理カウンセラーを目指す人が同じ穴にハマって騙されたり惑わされることがあっては元も子もありません。しっかり自分が進むべき道を考えることや、それを支えてくれる人に相談できるのが心理カウンセラーを志す人だといえるでしょう。

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この記事を書いた人

沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師)のアバター 沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師) 医学博士/臨床心理士/公認心理師

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