実社会で心理学を応用するときに大切な姿勢

精神的健康を上げたり、成績や業績を上げたり…現実社会で必要とされる問題解決について、心理学を応用する際には何が大事になるでしょうか。心理学がほとんどの人にとって誤解されているところであり、また、この答えがわからないままに知識だけで心理学を使って時間とお金の浪費につながる人たちを見てきました。

現実社会の中で心理学を応用する際に必要なこと…
それは、複雑性の理解です。
この複雑性とはなんでしょうか。

本記事は以下YOUTUBEでもご覧いただけます。

目次

複雑性を理解するためのプログラム

 さっそく、次のプログラムをみてみてください。このプログラムは、スクラッチというサイトで作られているので皆さんも実際に体験できます。動画をみてみた後に実際に動かしてみるとより理解が深まるかも知れません。

 さて、左下の大砲から刺激が出ています。心理学は、人の心に入ってくるありとあらゆる刺激と結果の関係を探求する学問といえます。心にどのような刺激を入れたら精神的健康度が上がるのか、心にどのような刺激を入れたら成績が上がるのか・・・心理学を応用して問題解決したい場面です。

さて、このプログラムではプラスの的を狙って打たれているので、刺激は心を通過してどんどん左上のポイントが加算されていきます。プラスはいったい何なのか…あえてここでは定義しませんが、精神的健康とか幸福とか成績とか皆さんが目指したい方向性を想像してみてください。

動画という刺激を心で受けて精神的健康を上げる、友達に会うという刺激を心で受けて幸福度を上げる、授業という刺激を心で受けて成績を上げる。今動いているプログラムのように心が物理法則に従ってくれれば、これほど簡単なことはありません。

物理法則で動かない心

しかし、実際には違います。動画や友達という刺激を受けて、たとえば、何か過去の嫌な気持ちを思いだして逆に精神的健康動画や幸福度が下がる。授業という刺激を受けたのに注意散漫になって成績が上がらない。このようなことが起きるでしょう。なぜでしょう。

それは、心は複雑な要素の塊だからです。心理学はこの複雑な要素の塊一つひとつを研究する学問といってもいいでしょう。ここでボタン1を押します。心の要素が飛び出してきました。まず、心は刺激を受け取り、情報処理する過程があります。たとえば、注意散漫になるような心の部分を研究している分野は、心理学の中でも知覚・認知心理学といいます。次に刺激は脳のアイコンにぶつかっていますね。

注意は脳の領域とも関わっていますが、脳を中心に心を解明しようとする分野は神経・生理心理学といいます。そして、刺激は遺伝の横を通り過ぎて、階段を登るアイコンの発達心理学にぶつかっています。発達心理学は、年齢を重ねることを通して心がどう変化していくか、その視点で心を解明していく心理学の分野です。人は環境か遺伝か発達心理学でも重要なテーマになっている遺伝的影響は、生理心理学が扱う部分でもあります。

さて、刺激は集団の中で心がどう揉まれて結果に影響するかという社会心理学的な要因にも影響を受けていきました。

ここに挙げられているこころの要素は5つですが、実際には、心は刺激を受け取ると数え切れ来ほどの観点や要因、たとえば感情・人格心理学の分野などでも影響を受けて結果に影響します。数え切れない心理学の研究分野を上げていると終わりませんので今後の動画を期待してください。

ここで覚えておいて欲しいことは、心は結果に影響するさまざまな観点、要因があって複雑だです。

今は5つの要素でも複雑な軌道を描いてマイナスへ向っています。

この軌道を解明するのも困難なのですが、多くの人にとっての心理学的なイメージは、刺激の流れをなんとかプラスにするために、どこかの心理学的要因を一つ変えてみようとすることです。人間関係を変えてみたり、注意できる環境にしてみたり…何か部分的に変えることです。YOUTUBEにも○○の心理学的な方法!と部分的な視点で一つを変えて心理的な効果を謳う動画が溢れています。

要素で動かない心

でも、聞いたときにはうまくいきそうでも、これではうまくいきません。うまくいくなら、もう世の中に問題は存在していないはずです。なぜうまくいかないのでしょう。それは、実際に心の要素を一つだけ動かして刺激の影響をコントロールすることはできないからです。2のボタンを押して実際のイメージに近づけてみます。どこかを動かすと、どこか連動して動くでしょう。

実際の心は、たとえば、人間関係を変化させると、もちろんその人の成長の仕方も変化します。また、遺伝が成長に影響することも、成長が遺伝子に影響することもわかっていることです。それらの変化で脳の活動も変化しますし、認知も変化します。このように、心の一部分だけ切り取って変えられないことは経験からもわかることです。心の要素は複雑につながっていて、それぞれの人が持っているバランスで成り立っているのです。

だから部分だけを変えてもうまくいきません。しかし、私たちはその現実を見ないで単純に部分を変えようとしてしまいます。さらにさらに、心は複雑です。同じ刺激に対しても、私たちの心はどの要素が大きく影響するか絶えず変化しています。たとえば、眠いときは脳が刺激に対して大きく影響するでしょうし、小さい頃は心の成長度合いが大きく刺激に対して影響すると言った具合です。3のボタンを押すと、それぞれの要素が絶えず刺激に影響する度合いが変化している実際の心のイメージに近づきます。

心の外も複雑

 そして、もう一つ…心だけではなく、刺激そのものも複雑なはずです。心は常に同じ刺激にさらされているわけではありません。今日と明日、同じような刺激を受けても実は違う受け取りになることはよくあります。この動画も客観的には今日と明日は同じ刺激を発しているはずですが、些細な音の変化、画面の光の変化が含まれるはずです。複雑な世界では、小さな変化が無視できないことはこのプログラムを見ていてもわかるはずです。ちょっとした角度や要素の変化が刺激への影響を変えています。そして、結果的にプラスとマイナス逆になることがあると観察できます。これは、カオス理論としてきちんと理論化されている話でもあるのです。

 そう、心を通して起きる刺激と結果の関係は、複雑でカオスなのです。方法論として部分に切り分けて考えることがうまくいかなかったり、予測をすることはできません。簡単にいうと心は「わからない」。私は専門家としてそう考えています。「わからない」というと、元も子もないようですが、「複雑でわからない」に取り組んできた学問こそ心理学であり、心の健康を現実場面の中で応用してきた臨床心理学だと考えています。順風満帆に人生を歩んでいた人が精神的に不健康になったり、逆に、精神的に不健康だった人が順風満帆に人生を歩みはじめる姿についても私は現場でみてきました。そして、学べば学ぶほど人の心は複雑でわからないところがありながら、可能性に満ちあふれていると感じています。

 心がつながって作られている現実も実はわからないことだらけです。天気予報だって、次の日は86%、3日目の予報の的中率は約72%、7日目にいたっては64%の的中率しかなく、コインで占う50%に近づきます。

情報化社会が進むほど、現実はわからないことがわかってきているのかもしれません。コロナの感染が分かって世界でシェアできるからこそ、どう感染が広がって、どのような治療があるのか、ごまかしがきかず正直「わからない」ことになっているのかもしれません。さまざまな価値観がわかるようになったからこそ、人はさらに無限の可能性を探求、行動するようになっているのでしょう。

複雑性に向き合うことが心理学の応用では必要

科学は、予測や「わかる」を目指して生活を豊かにしてきましたが、心の健康は増しているとは言い切れません。わかろうとすると足下が救われることは心の健康に携わってきた中で何度も経験してきました。心に向き合うときは、謙虚な姿勢で「わからない」という複雑性を理解しておくことこそ、現実社会の応用では大事です。その価値観に基づいた戦略でFromUは今後も情報を発信していきます。

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この記事を書いた人

沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師)のアバター 沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師) 医学博士/臨床心理士/公認心理師

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