質問紙調査をする上での注意点

この記事は質問紙調査(アンケート調査)を用いた卒論・修論を計画している方を対象に、大事なポイントをお伝えしていきます。 質問紙調査において必須となる「尺度」の選び方について具体的に解説していきます。

尺度とは?

質問紙調査では「どのような尺度を使うか」が重要となります。
「尺度」とは、ある概念について測定するものさしみたいなものです。
例えば、「レジリエンス(精神的回復力)」について調べたいときは、レジリエンスに関する質問で構成されている尺度を用いて、質問紙(アンケート)を作成します。イメージとしては以下のようになります。

それぞれの文章が現在のあなたにどれくらいあてはまるかを考えて、1から5のいずれかの数字に〇をつけてください。(1:いいえ,2:どちらかというといいえ,3:どちらでもない, 4:どちらかというとはい,5:はい )

質問1:色々なことにチャレンジするのが好きだ      1・2・3・4・5

質問2:自分の感情をコントロールできる方だ       1・2・3・4・5

質問3:自分の未来にはきっといいことがあると思う    1・2・3・4・5

質問4:新しいことや珍しいことが好きだ         1・2・3・4・5

質問5:動揺しても,自分を落ち着かせることができる   1・2・3・4・5

質問21まで続く・・・

引用:小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治 (2002). ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性-精神的回復力尺度の作成- カウンセリング研究, 35, 57-65

なんとなくイメージできたでしょうか。 質問1~質問21はレジリエンスを測定する「尺度」の例です。しかし、この「尺度」ですが、よ~く慎重に選ばないと、いろいろと後で大変なことになります。
以下は、尺度を選ぶときに抑えておくポイントをお伝えします。

尺度の信頼性・妥当性は保たれているか?

  • 信頼性: 同じ人に何回も同じアンケートを実施しても、同じ結果が出ることを指します。つまり、データの安定性・一貫性が高いということです。 使用した尺度がそもそも信頼できないと、自分の論文の信頼性そのものも低くなってしまいます。
  • 妥当性:本当にその概念を適切に表しているのかを指します。例えば、レジリエンスはポジティブな概念なので、反対に抑うつ状態といったネガティブな概念とは反対ですよね。 そこで、レジリエンス尺度と抑うつ状態を測る尺度を一緒に回答してもらい、相関関係を見る手法もあります。レジリエンス得点が高いほど抑うつ状態が低い結果であれば、妥当性は示されます。

上記の例は簡単な解説・一例なので本当はもっと細かく、いろんな測定方法があります。これらがきちんと説明されている元論文を読んで、信頼性・妥当性が確かな尺度を使用しましょう。

尺度の被引用文献数は多いか?

「被引用文献数」とは?

信頼性とか妥当性とかようわからん!という方は、尺度の「被引用文献数」を調べてみましょう。「被引用文献数」とは、ある論文が他の論文から引用された数です。 例えば、レジリエンスの有名な尺度だと、小塩先生が作成した「精神的回復力尺度」があります。 これを、Google Scholarで検索すると、現時点(2020年6月13日時点)で86件引用されています。 被引用件数が多いほど、その分野でよく使われるメジャーな尺度であり、信頼性・妥当性が確認されている尺度の場合が多いです。 まず被引用文献数で有名な尺度をみつけて、そこから信頼性・妥当性について確認してみましょう。

質問項目数は適切か?

質問項目数とは、アンケートに答えてもらう質問の数です。
尺度の質問項目数が多いと、回答者に負担を与えてしまい、途中で回答が抜けていたりする場合があります。せっかく対象者を集められたのに、回答してもらえないと、分析に使用できるデータ数は少なくなります。

短縮版って?

質問項目の重要箇所だけ集めた「短縮版」の尺度を用いた方が良い場合もあります。 一般的にアンケートはいくつかの尺度を組み合わせて構成されています。 例えば、レジリエンスと自尊心の関連をみたいのであれば、「レジリエンス」と「自尊心」の2つの尺度が必要となります。もっと詳細に調べたいのであれば、他の概念を組み合わせて、3~4つの尺度で構成する場合もあります。その場合は項目数が増えてしまうので、短縮版を使うケースもあります。
ただ、尺度によっては短縮版がない場合も多いので、確認してみてください。

なぜその尺度を選んだのか説明できるか?

同じ概念を測定する尺度でも、研究者によって概念の捉え方は異なります。
例えば、「レジリエンス」と一言でいっても、個人の特性(パーソナリティ)として捉える尺度もあれば、さらにそれを細分化して、「生まれ持っているレジリエンス(資質的レジリエンス)」と「経験の中で獲得していくレジリエンス(獲得的レジリエンス)」と捉える尺度もあります。ほかにも、個人の特性だけでなく、どの程度他者やコミュニティとのつながりがあるか(サポート資源)を問う尺度もあります。

  • 使用する尺度はどの定義・考え方に基づいて作成されているのかを確認しておきましょう。
  • なぜその尺度を選んだか論理的に説明できるようにしましょう。尺度の立ち位置を理解することで結果の解釈や考察の際に役に立ちますし、筋の通った論文が書けます。

まとめ

以上が尺度の選び方についてでした。尺度を慎重に選ぶことは、文献を数多く・丁寧に読み込むことと同じです。結局地道に文献を集めて整理していく作業が求められます。頑張りましょう!

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この記事を書いた人

沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師)のアバター 沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師) 医学博士/臨床心理士/公認心理師

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