人の役に立つ研究とは?
#15437 谷里子
大学(院)生の皆さん、卒論や修論を書くときにどんなことを大切にしているでしょうか。
以下の文章は①人の役に立つ研究が心理学では大事、②その“人”って誰を対象としているのか?
という構成で成り立っています。
[toc]
[toc]
人の役に立つ研究が心理学では大事
一般的に論文を書く際に大事なポイントと言われているのは
①新規性(研究の結果が新しい知見であるか)
②独自性(研究にオリジナリティがあるか)
③有効性(研究の結果を日常の中で応用できるか)
この3つです。要するに、自分で面白いテーマを見つけて研究を行い、その結果を世の中の人のために役立てることが求められます。この3つの視点は心理学だけでなく、様々な分野・領域の学問で重要とされています。
例えば、私の兄は工学部で「電動車椅子」の研究をしていました。どういう研究かは詳しくは分からないのですが、プログラミング技術を応用して電動車椅子の走行がスムーズにいくように研究していたようです。この例は、福祉と電子工学のコラボレーションですが、人の役に立つ研究の1つですよね。
このように、理系・文系問わず、人のためになる研究は様々存在します。そして、その中でも人の心を扱う「心理学」の分野では、より「どうしたら人のためになるのか?」という視点が重要になってきます。
その“人”って誰を対象としているのか?
人のためになる研究っていうけど、イメージがつかない・・・という方もいるでしょう。
人のためといっても、どんな人に対して役立てることができるのかという視点も大事です。
例えば、こんな研究もあります。
奥村先生のグループでは国内の抑うつ研究を集めて、どのような研究が行われているのか調査しました。その結果、アンケート調査において十分な質問数でうつ病を測定していないことや、病院に来院する患者の抑うつを測定するために作成されたアンケートを大学生に適用している論文があったことなどが明らかになりました。
この研究は、抑うつ状態で困っている人をきちんと研究で正確に測定できているのか、という問題提起をしており、質の高い抑うつ研究が普及するための尺度(アンケート)の使用方法や分析方法など具体的な解決策を論じられています。
これは誰に向けた論文かというと、まずは研究者の方々に対して、論文のデータの信頼性を高めるように提言しているように思われます。そして、この論文をきっかけに質の高い論文が数多く世の中に発表されたら、臨床にも還元されるようになります。まわりまわって、いろんな人(研究者・臨床現場で働いている実践者)に役に立つ研究だと思います。
このように、抑うつ状態で困っている本人を直接調査するだけでなく、うつ病の調査をしている研究者に対して役に立つ研究もあります。
この奥村先生の論文を読んでから、私の研究テーマである「レジリエンス」は、果たして本当に尺度(アンケート)によってレジリエンスを正確に測定できているか、そもそもレジリエンスの定義があいまいなのにもかかわらず、尺度が乱立しており、この現状をどのように捉えるべきか再考する必要性を感じました。昨今のレジリエンスブームを俯瞰的に見て、「そもそもレジリエンスってなんだっけ?」という問題提起を論文で発表できないかなぁ、と考えるようになりました。
このように「人の役に立つ論文」とは、問題を抱えている本人から家族、あるいはその周囲の支援者、研究者まで多岐にわたります。学生の皆さんは、どの対象者を役立てたいと思っているのか、そこに注目してみると論文がより面白くなってくると思います。
参考文献
奥村泰之, 亀山晶子, 勝谷紀子, 坂本真士
1990年から2006年の日本における抑うつ研究の方法に関する検討.
パーソナリティ研究 16 (2): 238-246, 2008.
コメントをどうぞ