アクスラインの8原則とは?遊戯療法でセラピストがとる8つの態度をわかりやすく解説

遊戯療法の基礎から学ぶ 人形を叩く子を、ただ見守る? アクスラインの8原則の対話動画のサムネイル

アクスラインの8原則は、子どもの遊戯療法(プレイセラピー)で、セラピストがとる基本の態度を8つにまとめたものです。心理職の養成課程や大学院入試でもよく出てくるので、名前は聞いたことがある、という方は多いと思います。

ただ、8つを覚えることと、プレイルームで子どもを前にしてどう動くかは、少し別の話です。「受け入れる」とは、何をしても止めないことなのか。「許容的な雰囲気」とは、何でもしていいよと伝えることなのか。この記事では、8つの原則を一覧で確かめたうえで、現場で迷いやすいところを、臨床心理士・公認心理師・保育士がそれぞれの立場から話し合った動画とあわせてみていきます。

目次

アクスラインの8原則とは

アクスライン(Virginia M. Axline)は、来談者中心療法で知られるロジャーズのもとで学んだ遊戯療法家です。ロジャーズの考え方を子どもの遊戯療法に生かし、1947年の著書『Play Therapy(遊戯療法)』で、セラピストがとるべき態度を8つの原則にまとめました。

土台にあるのは、子どもは安心できる場があれば、自分の力で育とうとする、という考え方です。8つの原則は流派を超えて、多くの遊戯療法の基本とされています。

#原則ひとことで
①温かく友好的な関係をつくるできるだけ早く、子どもとの間に信頼の関係(ラポール)をつくる
②あるがままに受け入れる子どもがどんな状態でも、そのまま受けとめる
③許容的な雰囲気をつくるここでは気持ちを自由に出して大丈夫、と感じられる場にする
④感情を察して返す子どもの気持ちをくみとり、それを子どもに返していく
⑤自分で解く力を信じる機会さえあれば、子どもは自分で問題を解いていける、と信じる
⑥指示しない子どもがリードし、セラピストはついていく
⑦急がない治療は少しずつ進んでいくものだと心得る
⑧必要な制限だけ設ける時間や場所、危ないことなど、必要な決まりだけは守る

(辞典の記述をもとに、言葉を言い換えてまとめています)

1本目:①〜③(臨床心理士・公認心理師・保育士の対話)

① 温かく友好的な関係をつくる ― ラポールは「つくる」もの?

1つ目の原則は、子どもとの間に温かく友好的な関係をつくることです。よく「ラポール」と呼ばれます。保育士の猫さんは「この人は安心できる人だ、という関係をつくること」と言い表していました。

ここで臨床心理士の黒豹さんが投げかけたのが、「信頼関係って、そんなに苦労してつくるものだろうか」という問いです。お互いに、人のことも自分のことも信頼できる2人なら、関係はわりと自然にできていきます。難しくなるのは、どちらかが人を信じること、自分を信じることに困難を抱えているときです。

遊戯療法に来る子どもの中には、まさにそうした難しさを抱えている子がいます。だからこそ、セラピストの側から関係をひらいていく必要がある。「いらっしゃいませ」とにこやかに迎える接客の話ではなく、信じることが難しい相手と出会うための構えとして、この原則を読むことができるように思います。

② あるがままに受け入れる ― 受け入れる=ジャッジしないこと?

2つ目は、子どもをあるがままに受け入れることです。ロジャーズの言う「無条件の肯定的配慮」に近い考え方です。

では、子どもが人形をボコボコに叩きはじめたら、ただ見守っていればよいのでしょうか。動画では、ここで3人の考えが分かれました。

  • 保育士の猫さん:叩いているのには理由がある。おもちゃの数が足りないのかもしれないし、嫌なことがあったのかもしれない。理由はそのときどきで違うので、まずその子の様子から探る
  • 臨床心理士の黒豹さん:傍観することと受容することは同じではない。自分なら叩かれる人形の役になって「いてててて」と応じるかもしれない。遊びのやりとりの中で、相手の気持ちを理解していく
  • 共通していたこと:「かわいそうでしょ」「なんでそんなことするの」と、大人の都合で良い子・悪い子をジャッジしないこと

「あるがままに受け入れる」は、何もしないことではなく、評価を急がずにその子の側から見てみる態度だと考えています。

③ 許容的な雰囲気をつくる ― プレイルームにパンチングミットは置く?

3つ目は、子どもが気持ちを自由に出しても大丈夫だと感じられる雰囲気をつくることです。猫さんの言葉を借りれば、「こちらも自然体でいるから、あなたも自然体でいていいよ」という場づくりです。

では、気持ちを自由に出せるように、プレイルームにパンチングミットを置くのはどうでしょうか。黒豹さんは「自分なら置かない」と答えました。理由は「攻撃性をあおるから」ではありません。

  • 衝動をその場で発散して満たされてしまうと、「自分にはこういう傾向がある」と気づいていくプロセスとは逆の方向に進みやすい
  • 遊戯療法の遊びは、言葉の代わりに心の内側を映し出すもの。だから、人形やお絵かきの道具のように内面を映しやすい道具を置く
  • 決まった手順で遊ぶ対戦ゲームなども、同じ理由で置かないことがある
  • ただし、その子にとって発散に意味がある、という見立てがあるなら、そうした遊びをしてもよい

「許容的」は「何をしてもいい」ではありません。8つ目の原則「必要な制限だけ設ける」とあわせて読むと、自由に表現できる場と、守られた枠は、ひとつのものの両面だということが見えてきます。

2本目:④⑤(臨床心理士・公認心理師・保育士の対話)

④ 感情を察して返す ― 「今どんな気持ち?」って聞くこと?

4つ目は、子どもの気持ちをくみとり、それを子どもに返していくことです。では、「今どんな気持ち?」と何度も聞けばよいのでしょうか。黒豹さんの答えは「聞きまくりはしない」でした。遊戯療法に来る子どもの多くは、まだ気持ちを言葉にすることが難しい。だからこそ、こちらが「今こんな気持ちっぽいね」と言葉にして返していく、という意味だといいます。

保育士の猫さんは、散歩中の小さな子の例を出してくれました。

  • 1〜2歳の子が転んで泣き、こちらを見たとき、無表情で「ああ、痛かったね」と言っても、子どもはなかなか泣き止まない
  • 大人が自分のことのように痛い顔をして「痛かったね」と返すと、子どもはすぐ泣き止むことがある
  • 大人が子どもの気持ちを映す「鏡」になる。受け止めてもらえたことで、子どもはまた自分の足で歩き出せる

一方で、「お兄ちゃんだから大丈夫」「痛くないよ」といった声かけが続くと、つらい気持ちを正反対の態度で覆い隠す「反動形成」(防衛機制のひとつ)を強めることにもなりうる、という話も出ました。とはいえ、子育ての中でそうした声かけをすることは誰にでもあります。黒豹さんが強調していたのは、声かけの正解探しよりも、「自分は支配的になりすぎていないか」と親自身がふり返ることでした。子育てで問われているのは、実は自分自身なのかもしれません。

⑤ 自分で解く力を信じる ― ゲームを好きにやらせたら、ずっとやる?

5つ目は、機会さえあれば、子どもは自分で問題を解いていける、と信じることです。選ぶことと変わることの責任は子どもにある、という考え方です。

ここで犬さんが投げかけたのは、「ゲームを好きにやらせたら、ずっとやるのでは?」という、多くの親が抱く心配でした。黒豹さんはこの心配を、親の側の「超自我不安」が刺激されている状態だと説明します。

  • 超自我は、親やしつけから取り込んだ「〜してはいけない」という心の声(フロイトが考えた、心の3つの部分のひとつ)
  • 「自分が禁止しないと、この子は欲求のままにダメになってしまう」と親が不安になり、禁止を強めたくなる
  • けれども子どもの中にも、3〜4歳ごろには「ずっとやっていたらダメだな」「怒られるかも」というブレーキが働いている

親が「私がコントロールしないと」と思いすぎることは、この原則とは反対の方向です。子どものオートノミー(自律性)が育つように関わる、というのが⑤の意味だといいます。親の価値観を伝えること自体はかまわない。ただし押し付けない。「自分ならこうするけれど、選ぶのはあなただよ」と言えばよい、という話もありました。

親ガイダンスとペアレントトレーニング

動画の後半では、子どもの面接と並行して親と会う「親ガイダンス」の話になりました。親ガイダンスは、思春期や発達期の子どもに親としてどう関わるかを、心理学の視点から助言するものです。カウンセリングとは違い、「ガイダンス(助言)」である点が特徴です。

似たものにペアレントトレーニングがあります。動画での整理は次のとおりです。

  • ペアレントトレーニング:行動療法・認知行動療法の立場から生まれたもの。学習理論をもとに、親の子どもへの関わり方(行動)を変えていく
  • 親ガイダンス:精神分析的な発達論をもとに、それぞれの家庭に合わせて関わり方を一緒に考えていく

では、子どものプレイセラピーと親ガイダンスはどちらがよいのか。黒豹さんの答えは「よい・悪いの問題ではない。できれば並行で」でした。事情によってどちらかしかできない場合もあるので、見立て(アセスメント)をして決めていく、ということになります。

3本目:⑥〜⑧(臨床心理士・公認心理師・保育士の対話)

⑥ 指示しない ― ⑤と同じこと?

6つ目は、子どもの遊びや話を大人の側から方向づけず、子どものあとについていくことです。動画では「⑤ 自分で解く力を信じる と同じことでは?」という声も出ましたが、⑥ はより具体的に、「ああしなさい、こうしなさい」と言わないことを指しています。子どもの力を信じているからこそ、指示しなくて済む、ともいえます。

では、面接の終わりの時間が来ても、子どもが「もっと遊びたい!」と帰ろうとしないときは、どうするのでしょうか。黒豹さんの答えは、「そろそろ時間だよ」と伝えるだけ、というものでした。それは指示ではなく、約束の時間を知らせることだといいます。

  • 帰りたくない気持ちは、「もっと一緒にいたいのかな」とくみとって返す
  • 「また来週待ってるね」と、次につながる言葉で送り出す
  • 指示しない・怒らない・説教しない

やり返さずに、何を手がかりに動くのか。黒豹さんは、相手の立場に立てるかどうかに尽きる、と話していました。

⑦ 急がない ― 時間のこと?

7つ目は、治療を急がないことです。セラピストの側も、次の予約が迫っていたり、成果を出さなければと感じたりすると、つい急ぎたくなります。保護者から「いつ治るんですか?」と聞かれることもよくあります。保育士の猫さんからは、「子どもの成長も時間がかかるもの。待てますか、と問い返したくなる」という声も出ました。

では、ふだんの子育てで「早くしなさい」と言うのは、ダメなことなのでしょうか。「毎日言ってしまう」「世の中が忙しいから」という本音も出ましたが、黒豹さんの答えは「それはセラピーの中の話」でした。

  • 子どもに全部合わせるか、まったく合わせないか、の二択ではない
  • 生活の中で多少急かすことは、責められることではない
  • 急ぐ理由を伝えれば、子どもはわかってくれることも多い

一方、プレイルームの中では、子どもが自分のペースで遊び、気持ちを出していけることを大切にします。急がないのは、のんびりするためではなく、その子のペースを守るためだと考えています。

⑧ 必要な制限だけ設ける ― 必要な制限って、何?

8つ目は、セラピーを現実につなぎとめ、子どもが関係の中での自分の責任に気づくために、必要な制限だけを設けることです。黒豹さんは、何でも制限したがるのは「しつけの領域に問題があります」と自分で言っているようなもの、と笑いながら話していました。

ここで出てきたのが、リミットセッティング(限界設定)です。

  • 面接の場に、はっきりした限界(枠)を決めておくこと
  • 例:時間の枠は広げない/人や自分を傷つけることは止める
  • 止めるときも、やり返さず、その気持ちをわかろうとする

制限を破ったときは、やり返さずに「やめようね」と伝え、そのうえで「そうしたくなる気持ちを、ここで話してくれない?」と、気持ちのほうに目を向けていきます。止めることと、気持ちを受けとめることは両立します。

では、つい制限しすぎてしまうのはなぜでしょうか。黒豹さんは、不安に駆られているのは子どもではなく、治療者や親の側であることが多い、と指摘していました。それだけ大人の「言うことを聞いてほしい」という気持ちは刺激されやすい、ということです。2本目の ⑤ で出てきた「超自我不安」の話ともつながります。そして、大人もみんな完璧ではない、という前提に立つことも大切です。

8つを振り返って

最後に3人で8つの原則を振り返りました。どの原則にも通じているのは、相手を一人の人間として大事にする、という態度です。猫さんからは、セラピスト自身がそうやって大事にしてもらった経験があるかどうかで、原則の腑に落ち方も変わってくるのでは、という話も出ました。黒豹さんの「それを愛と呼ぶんじゃないですか」という言葉で、シリーズはしめくくられています。

よくある誤解:「許容的」は「何でも許す」ではない

アクスラインの原則は、やさしく受け入れることばかりが強調されがちです。けれども8つ目には、はっきりと「制限」が入っています。時間や場所の約束、セラピストや遊具への行きすぎた攻撃を止めることなどです。

受け入れることと、枠を守ることは、矛盾しません。枠があるからこそ、子どもは安心して気持ちを出せる。その両方を持ち続けるところに、遊戯療法の難しさとおもしろさがあるように感じています。

職種によって、原則の見え方は変わる

動画では、心理職だけでなく保育士の視点が入ったことで、同じ原則でも見え方が変わりました。保育の現場では、子どもと長い時間をともに過ごすからこそ、叩いている理由が自然と見えてくることがあります。心理の面接室では、限られた時間の中で、遊びを言葉の代わりとして読んでいきます。

あなたの職種なら、①〜⑧をどう考えるでしょうか。よろしければ、動画のコメント欄で教えてください。

心理支援を学びたい方へ

FromU では、心理職・対人援助職の方に向けたスーパービジョンや、学校・園・企業への研修を行っています。遊戯療法や子どもの見立てについて、立場や職種をこえて一緒に考えたい方は、こちらをご覧ください。

参考文献

  • Axline, V. M. (1947). Play therapy. Houghton Mifflin.
  • 『心理臨床大事典 改訂版』培風館(「主な心理臨床家:アクスライン」の項)
  • 『心理学事典』平凡社(「遊戯療法」の項)

関連動画:院試塾 12限目② 遊戯療法と箱庭療法(https://www.youtube.com/watch?v=Q_Fi6y9N1MM)

※動画に登場する動物とエピソードは架空です。ただし、心理学の話だけは本物です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

沢 哲司のアバター 沢 哲司 合同会社FromU 代表|臨床心理士・公認心理師・博士(医学)

大正大学で臨床心理学を学び、北里大学大学院で発達障害の神経心理学的研究に取り組んで博士(医学)を取得。病院・保健所・小学校のスクールカウンセラーとして臨床を重ねたのち、東京福祉大学・北里大学大学院で教員を務め、心理オフィスFromUを開業。
いまはカウンセリングと心理検査のほか、企業・学校での研修やコンサルテーション、大学での臨床心理学の講義を担当しています。専門は発達障害、心理アセスメント、精神分析的心理療法。
このブログでは、臨床心理学を学ぶ人と心理職を目指す人に向けて、見立ての考え方、大学院入試の過去問分析、心理学部の選び方を書いています。

コメント

コメントする

目次