臨床心理士と公認心理師の違いは? 精神科医・精神保健福祉士との役割分担、なり方、収入まで【心理学部ガイド①】

心理学部ガイド① 心の仕事と資格はどう分かれているか

「心理学部に行けば、カウンセラーになれますか」。進路相談で、いちばん多く聞かれる質問です。

答えは「なれます」。ただし、大学の4年間だけでは足りません。カウンセラーと呼ばれる仕事の多くは、大学院まで進んで初めて受験資格が出る国家資格と民間資格の上に成り立っているからです。

この記事では、心理学部を考えている高校生と保護者の方に向けて、心の仕事の資格がどう分かれているのか、何年かかるのか、そして食べていけるのかを、法律の条文と国や東京都の公表資料の数字だけで整理します。私は臨床心理士と公認心理師の両方を持ち、保健所・精神科病院・クリニック・小学校のスクールカウンセラー、そして心理学部と大学院の教員をしてきました。その立場から、気休めは言わずに書きます。

動画版(約15分)もあります。記事の各章は、動画のチャプターと同じ順番です。

目次

  1. 臨床心理士と公認心理師の違い
  2. 精神科医・公認心理師・精神保健福祉士、できることの違い
  3. 公認心理師になるには:3つの受験資格と、高校卒業からの6年
  4. 心理学部の6年でいくらかかるか
  5. スクールカウンセラーになるには
  6. 心理の仕事で食べていけるのか:働き方と年収の数字
  7. よくある質問
  8. まとめ:なれます。ただし条件が2つ

目次

臨床心理士と公認心理師の違い

名前の似た2つの資格から始めます。どちらも「心理の専門家」の資格ですが、成り立ちが違います。

臨床心理士公認心理師
始まった年1988年2017年(法律の施行)
認定するのは民間の団体(日本臨床心理士資格認定協会)国(公認心理師法にもとづく国家資格)
受験資格の中心指定大学院の修了大学の指定科目+大学院の指定科目(くわしくは後述)
更新5年ごとに更新更新なし
字武士の「士」教師の「師」

臨床心理士は1988年に始まった民間資格です。指定された大学院を修了して試験を受け、合格後も5年ごとに更新があります。協会は臨床心理士の専門業務を、心理査定(アセスメント)・心理面接・地域援助・調査研究の4つとしています。心理査定は検査や面接でその人の心の状態を見立てること、心理面接はいわゆるカウンセリング、地域援助は学校や職場など周囲への働きかけ、調査研究は自分の実践を検証して積み上げることです。4つ目に「研究」が入っているのが、この資格の特徴だと私は思っています。

公認心理師は2017年に施行された公認心理師法にもとづく国家資格です。何をする人かは、法律の第2条に書いてあります。保健医療・福祉・教育などの分野で、心理学の専門的な知識と技術をもって、①心の状態を観察して分析する、②相談に応じて助言する、③家族など関係者に助言する、④心の健康について知識を広める。この4つです。一般にいう「カウンセリング」と「心理検査」は、このうち①と②にあたります。

もう1つ、進路を考えるうえで大事な条文があります。第42条第2項です。相談に来た人に主治医がいるときは、その医師の指示を受けなければならない、と定めています。心理師は医師と連携して働く仕事だと、法律が決めているのです。

両方持って働くのが、いまの標準

公認心理師の登録者は、2026年6月末の時点で約7万6千人です。始まって9年でここまで増えました。では臨床心理士は要らなくなったのかというと、そうではありません。国の事業として行われた調査では、公認心理師の約71%が臨床心理士の資格も持っていました。

高校生のみなさんが、どちらを目指すか今決める必要はありません。大学院まで進めば、多くの場合、両方の受験資格が一度にそろうからです(理由は第3章で)。

なお、検索すると「公認心理士」と書かれていることがありますが、正しくは「公認心理師」です。臨床心理士は武士の「士」、公認心理師は教師の「師」。字の違いで、どちらの資格の話をしているかが分かります。


精神科医・公認心理師・精神保健福祉士、できることの違い

精神科の病院には、心の専門家が3種類います。精神科医、公認心理師、精神保健福祉士。どれも国家資格ですが、できることがはっきり分かれています。私は保健所と精神科病院とクリニックで、この3つの職種と一緒に働いてきました。

職種根拠法中心の仕事具体的には
精神科医医師法診断・処方・入院の判断診察して診断を下し、薬を出す。入院が必要かを判断する。薬を出せるのは医師だけ
公認心理師公認心理師法心理検査と心理面接検査を実施して心の仕組みを読み取り、面接で考え方の癖や背景を見立てる
精神保健福祉士精神保健福祉士法生活と制度退院後の住まい・仕事・お金の制度につなぐ

1人の患者に、3人はこう関わる

たとえば、気分の落ち込みで入院した人がいるとします。

まず精神科医が診察して診断を下し、薬を決めます。次に公認心理師が心理検査と面接をして、落ち込みの背景にどんな考え方の癖や生い立ちがあるかを見立て、医師に伝え、本人にも返します。退院が近づくと精神保健福祉士が、帰る家はあるか、仕事に戻れるか、使える制度は何かを整えます。最後に3人が集まって情報を共有し、方針を合わせます。

どれか1つが欠けると、その人の回復は遅れます。3つは上下関係ではなく、役割を分けて組む仕事です。

精神科医と精神保健福祉士には、何年でなれるか

精神科医は、医学部6年のあと医師国家試験に合格し、臨床研修2年(医師法第16条の2)、さらに精神科の専門研修を受けます。一人前になるまで、最短でも10年前後です。

精神保健福祉士は、福祉系の大学で4年間、指定の科目を学んで国家試験を受けます。一般の大学を出た人も、養成施設で1年以上学べば受験できます。2026年3月の第28回国家試験は、受験者7,107人・合格者5,558人・合格率78.2%でした。高校卒業から最短4年。3つの中では、いちばん早く現場に立てる資格です。


公認心理師になるには:3つの受験資格と、高校卒業からの6年

公認心理師の受験資格は、公認心理師法第7条に3つの区分で書かれています。

区分道年数の目安
区分A大学で指定の25科目を学んで卒業し、大学院で指定の10科目を修了する大学4年+大学院2年=6年
区分B同じ25科目を学んで卒業したあと、国が認定した施設で2年以上働く大学4年+実務2年=6年
区分C国が、同等以上の知識と技能があると認めた人(外国の大学院を出た人など)—

区分Bの認定施設は、2026年2月の認定分を含めて全国に13施設しかありません。ですから、ほとんどの人は区分Aで進む、と考えてください。

つまり、どの道でも大学の4年間だけでは受験できません。冒頭の「足りない」の理由はここにあります。

「心理学部」なら受験できる、ではない

ここで、高校生のみなさんにいちばん伝えたい注意があります。

大学の25科目が、どの心理学部でもそろっているとは限りません。公認心理師の科目を全部そろえている大学だけが、受験資格につながります。「心理学部」「心理学科」という名前でも、そろっていないことがあります。逆に、文学部や教育学部の中の心理学コースで、そろえている大学もあります。

志望校の公式サイトで「公認心理師カリキュラム対応」と明記されているかを、出願の前に確かめてください。「対応予定」とだけ書かれている場合は、入学する年度に間に合うのかまで問い合わせておくと安心です。大学の見方は、このシリーズの第3回でくわしく扱います。

高校卒業からの6年を、一本の線にすると

区分Aで進む人の6年間です。大学ごとに違いますが、おおよその目安です。

  • 大学1〜2年:心理学の基礎と統計。実験をしてレポートを書く
  • 大学3〜4年:心理演習と心理実習で現場に出る。卒業論文
  • 大学院1〜2年:心理実践実習が中心。病院や学校で相談を担当しながら修士論文
  • 修了する年:公認心理師試験と臨床心理士試験

同じ大学院が両方の受験資格を出していることが多いので、同じ年に2つの試験を受ける人も多くいます。臨床心理士の受験資格が出る指定大学院は、全国に150校あまりあります。

合格率はどのくらいか

2026年3月の第9回公認心理師試験は、受験者2,400人・合格者1,441人・合格率60.0%でした。区分Aの人に限ると67.7%です。6年かけて学んだ人なら、約3人に2人が合格する試験、と読めます。


心理学部の6年でいくらかかるか

保護者の方のために、お金の話もしておきます。授業料・入学料・施設設備費だけの概算で、生活費や実習にかかる費用は含みません。

学部4年大学院2年合計6年
国立 → 国立約243万円約135万円約378万円
私立(文科系)→ 私立約419万円約197万円約616万円
国立 → 私立約243万円約197万円約440万円
私立 → 国立約419万円約135万円約554万円

国立は、省令で決められた標準額(授業料535,800円・入学料282,000円。各大学はこの120%まで設定できます)で計算しています。私立は、文部科学省の令和7年度入学者の学生納付金調査の平均(学部は文科系の授業料850,392円・入学料219,951円・施設設備費141,892円、博士前期課程は授業料811,006円・入学料208,987円・施設設備費70,721円)で計算しています。

大学によって上下しますし、奨学金や授業料の減免もあります。この6年ぶんを目安に見ておいてください。

見るときの注意を2つ。1つは、大学院の学費は学部より安いことが多いので、「あと2年」の負担は学部4年の半分弱で見積もれること。もう1つは、国立の標準額は各大学が120%まで上げられるため、志望校の実額は公式サイトで確かめる必要があることです。心理学部の志望校を絞るときは、第3回で扱う「5つの軸」と合わせて、学費のページも開いてみてください。


スクールカウンセラーになるには

高校生のみなさんが、名前も顔も知っている心理職。それがスクールカウンセラーだと思います。私は2011年から東京都の小学校でスクールカウンセラーをしています。ここでは、東京都教育委員会が公表している令和9年度の選考実施要項をもとに書きます。

応募できる人

要項では、応募できるのは次の4種類の人です。

  1. 公認心理師
  2. 精神科医
  3. 臨床心理士(登録から1年以上たった人)
  4. 大学や大学院で心理学を教えている教員

つまり、ここまでに書いた資格のどれかを持っていることが入口です。選考は書類審査と面接で、任用は1年ごと。高校を出て大学と大学院で6年学び、資格を取ってから、ようやく応募できる仕事です。

働き方の数字

項目東京都の要項(令和9年度)
1校あたりの勤務年間38回・1回7時間45分(だいたい週1回)
受け持てる学校1人3校以内
報酬1回47,200円(令和8年度実績)
任期1年(毎年選考)
任用予定1,700名程度

週に数日の仕事なので、私のまわりでは、病院やクリニックと掛け持ちする人が多くいます。この「掛け持ち」が、次の章の話につながります。


心理の仕事で食べていけるのか:働き方と年収の数字

保護者の方が、いちばん聞きたいところだと思います。気休めは言いません。国の補助事業として日本公認心理師協会が行った「公認心理師の活動状況等に関する調査」(2021年3月報告・有効回答13,688人)の数字で答えます。

働き方

  • 常勤で働いている人:約55%
  • 非常勤で働いている人:約38%
  • 就労していない人:約3%

非常勤の人に理由を聞くと、約54%が「希望する常勤の求人がない」と答えています。自分の都合で非常勤を選んだ人は約40%です。また、公認心理師の約45%は複数の分野で働いています。私もクリニックと病院と学校を掛け持ちしてきました。

年収の分布(2019年度・回答8,990人)

年収割合
100万円未満4.2%
100〜200万円8.1%
200〜300万円16.4%
300〜400万円21.3%(最多)
400〜500万円17.7%
500〜600万円11.1%
600万円以上18.6%(うち1,000万円以上 2.9%)

400万円未満を合わせると約半数です。常勤の人では300〜500万円が中心、非常勤だけの人では200〜300万円が中心でした。高い収入を目指す仕事ではありません。けれど、常勤の職につけば生活は成り立ちます。

この表を保護者の方が読むときのポイントは、「平均」ではなく「分布」で見ることだと思います。600万円以上が約2割いる一方で、200万円未満も1割強います。差を分けているのは、おもに常勤か非常勤か、そして経験年数です。6年の学びのあと、最初の数年は非常勤の掛け持ちから始まることも多く、その時期をどう乗り切るかを、本人と家族で先に話しておけると、進路としての見通しが立ちやすくなります。

収入を安定させる、先輩たちの3つの道

  1. 常勤の職につく:病院、行政、企業の常勤職。月々の収入と社会保険がつく、いちばんの土台です
  2. 掛け持ちで週5日分を作る:週に数日の仕事を組み合わせる。私の場合はスクールカウンセラーとクリニックの組み合わせでした
  3. 経験を積んでから広げる:自分で相談室を開く、研修の講師をする、大学で教える。私はこの3つを全部通ってきました

どれも、6年の学びと、そのあと数年の経験が土台になります。


よくある質問

Q. 社会人になってから、心理の仕事を目指せますか。 目指せます。道は高校生と同じで、大学の指定科目と大学院の指定科目をそろえる区分Aが中心です。すでに大学を出ている人は、心理学の学部に編入するか、大学院の受験資格に必要な科目を通信制などで履修し直すことになります。年数は、どこから始めるかで変わります。

Q. 臨床心理士だけ、公認心理師だけ、でも働けますか。 働けます。ただ、求人では「公認心理師または臨床心理士」と両方を書くところが多く、国の調査でも公認心理師の約71%が臨床心理士を持っていました。大学院まで進めば両方の受験資格がそろうことが多いので、片方だけを選ぶ理由は、いまはあまりありません。

Q. 心理学部は文系ですか、理系ですか。 入試は文系で受けられる大学が多い一方、入学後は統計と実験が必修で、数学と向き合う場面があります。高校の科目選択で何を残しておくとよいかは、第2回でくわしく書きます。

Q. 資格を取れば、すぐにカウンセラーとして働けますか。 資格は入口です。スクールカウンセラーの例で見たように、資格を取ってから応募し、選考を受け、任用は1年ごと。最初の数年は、病院やクリニックと掛け持ちしながら経験を積む人が多いというのが、調査の数字と私の実感です。


まとめ:なれます。ただし条件が2つ

最初の問いに戻ります。心理学部に行けば、カウンセラーになれるのか。

なれます。ただし、条件が2つあります。

  1. 大学院まで進む覚悟を持つこと。 公認心理師も臨床心理士も、受験資格は大学院の先にあります
  2. 公認心理師のカリキュラムに対応した大学を選ぶこと。 名前が心理学部かどうかではなく、25科目がそろっているかで決まります

今日の5つを、もう一度だけ並べます。

  • 臨床心理士は民間資格、公認心理師は国家資格。いまは両方持って働くのが標準
  • 精神科医は診断と薬、心理師は検査と面接、精神保健福祉士は生活と制度。役割を分けて組む3つの仕事
  • 公認心理師になるには大学4年+大学院2年。学費は国立で約378万円、私立で約616万円が目安
  • スクールカウンセラーは、資格を取ってから応募できる仕事
  • 年収は300万円台がいちばん多く、常勤の職につけば生活は成り立つ

制度は変わることがあります。最新の情報は、各機関の公式サイトで確かめてください。

次に読むもの・見るもの

  • 第2回:心理学部で何を学ぶのか(文系?理系? 4年間の中身、推薦・総合型の面接と小論文)
  • 第3回:心理学部の選び方(大学を分ける5つの軸、オープンキャンパスで聞くこと)
  • シリーズの再生リスト:https://www.youtube.com/playlist?list=PLVXrDQkDlrds
  • 大学院まで進むと決めた人へ。大学院入試の準備は、無料で見られる「院試塾」で:https://fromu.jp/juku

この記事の出典

  • 公認心理師法(平成27年法律第68号)第2条・第7条・第42条第2項
  • 厚生労働省「第9回公認心理師試験の合格発表について」(2026年3月27日)
  • 厚生労働省「公認心理師」(受験資格・法第7条第2号の認定施設)
  • 一般財団法人公認心理師試験研修センター 第9回試験 合格者の内訳(区分A 67.7%)
  • 日本学術会議 報告(概要):公認心理師の登録者数(2026年6月末日現在)
  • 厚生労働省「第28回精神保健福祉士国家試験合格発表」(2026年3月3日)
  • 医師法 第16条の2・第17条
  • 東京都教育委員会「令和9年度東京都公立学校スクールカウンセラー選考実施要項」
  • 一般社団法人日本公認心理師協会「公認心理師の活動状況等に関する調査」報告書(2021年3月・厚生労働省令和2年度障害者総合福祉推進事業)
  • 文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」(2025年12月26日)
  • 国立大学等の授業料その他の費用に関する省令(平成16年文部科学省令第16号)
  • 文部科学省掲載 日本臨床心理士養成大学院協議会資料(指定大学院数)/日本臨床心理士資格認定協会「臨床心理士とは」「臨床心理士の専門業務」
  • 氏原寛ほか編(2004)『心理臨床大事典 改訂版』培風館

書いた人

沢 哲司(臨床心理士・公認心理師・博士(医学))。保健所・精神科病院・クリニック・小学校のスクールカウンセラー(2011年〜)を経て、心理学部と大学院で教え、現在は合同会社FromU代表。このシリーズは、法律と公的な資料をもとに制作・監修しています。動画の声は合成音声です。

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