叱れば叱るほど、子どもが荒れていく。注意すると、よけいに怒って、物を投げる。そんな場面で、「自分の関わり方が悪いのだろうか」と、ご自身を責めてしまう保護者の方は多いと思います。
この記事では、子どもの怒りへの対応を、「怒りの下にある気持ち」という見方から整理します。発達心理学の「感情の社会化」と、相手の心を思う「メンタライゼーション」という二つの考え方を重ねて、家庭で試せる手順と、気をつけたい点までをまとめました。
叱るほど荒れるのは、なぜか
「叱ったら、ふつうは、おさまるはず」。そう思いますよね。けれど、怒りという気持ちは、ほかの気持ちと少し違うところがあります。怒りは、まわりの人が身構える気持ちです。だから、どうしても叱られやすい。
ここで、一つの流れを見てみます。子どもがカッとなって爆発する。親が叱る。まわりも身構える。一方で、悲しそうにしている子は、慰めてもらいやすい。つまり、同じ「つらい」でも、悲しみの形で出せる子は受けとめられやすく、怒りの形でしか出せない子は、叱られる経験を重ねていきます。
すると、怒りの下にあった気持ちは、見せる場所をなくしていきます。出てくるのは、怒りだけ。叱るほど、下の気持ちは隠れていく。これは、親御さんのせいで起きるのではなく、ごくふつうの家庭で、ごくふつうに起きる流れだと、私たちは考えています。
怒りの下にある気持ち ── 感情の社会化という考え方
臨床心理学者の大河原美以さんは、『怒りをコントロールできない子の理解と援助』(金子書房、2004)で、怒りが止まらない子どもの理解のしかたを示しています。その本で説明されているのは、怒りの奥に悲しみや不安が隠れていることが多い、という見方です。氷山のように、見えているのは上のほうだけで、下にさみしさや心細さがある。
ここで鍵になるのが、感情の社会化という考え方です。感情を、からだの中を流れるエネルギーのようなものとしてとらえてみます。赤ちゃんが泣いているとき、大人は「悲しかったね」「おなかがすいたね」と声をかけます。そのくり返しで、からだの感覚と、ことばがつながっていく。こうして、感情をことばにして人と分け合えるようになっていく道すじを、感情の社会化と呼んでいます。
大人がことばをつけることで、子どもの感情は育っていく。そして、その道すじは、小学生になっても続いています。「怒り」という形でしか出せない気持ちに、別の名前をつけてもらう経験が、まだ足りていないだけかもしれません。
(本の内容は、ここでは考え方だけを私たちのことばで紹介しています。くわしくは、本をお読みください。)
行動の向こうの心を思う ── メンタライゼーション
もう一つの考え方が、メンタライゼーションです。むずかしそうな名前ですが、中身はシンプルで、見える行動の向こうにある気持ちや願いを思う力のことです。イギリスの精神分析家フォナギーらが提案した概念で、自分や相手の行動を、その人の気持ち・願い・考えといった心の状態から理解しようとする心の働き、と説明されています(福島編『公認心理師必携テキスト』の整理をもとに、ことばを変えています)。
たとえば、子どもが「うざい」と叫んでいるとき。「どうしてこんなことをするの」と行動を問うのではなく、「いま、この子の心の中はどうなっているんだろう」と想像してみる。くやしいのかな。わかってほしいのかな。
ポイントは、「わかった」と決めつけないことです。「本当は悲しいんでしょ」と言い切ると、外れていたときに、子どもはもう一度、自分の気持ちを隠します。ちがうかもしれない、と思いながら、そっと推測する。たずねる形でかまいません。
ここで、二つの考え方を重ねてみます。感情の社会化で大切にされる親の関わりは、子どもの気持ちの側に入ってことばにする動きと、親自身は落ち着いたままで安心の側へ連れていく動きの、二つの組み合わせです。メンタライゼーションの研究でも、子どもの感情を映し返しながら、親は落ち着いているという目印を添えることが大切だと考えられています。似たことを、別のことばで言っているのではないか。これは、私たちの見立てです。
まず、親の余力から
ここまで読んで、「落ち着いたままでいるのが、一番むずかしい」と感じた方は多いと思います。そこが、一番の壁です。
怒っている子を前にすると、親も不安になったり、腹が立ったりします。心の余力が減ると、人は、相手の心を思う力が落ちます。これは、親だから、ではなく、誰でも同じです。親御さんご自身が、つらい気持ちを受けとめてもらえないまま育ってきた場合もあります。そのとき、怒っている子を前にして、からだが先にこわばるのは、自然なことです。
だから、「できない」のは、親の力不足ではありません。余力が尽きているだけです。子どもの心を思う前に、まず、ご自分の余力を見てください。この順番が、私たちは大事だと考えています。
ことばにして返す五つの手順と、気をつけたい三つ
架空の場面で試してみます。小学三年生の A くん(架空の人物です)が、宿題の途中で怒りだしました。
子:もう、やらない! ぜんぶ、うざい!
親:ものすごく腹が立ってるんだね。
子:だって、やっても、まちがえるし!
親:まちがえたのが、くやしかったんだ。
子:……うん。
怒りが消えたわけではありません。でも、気持ちがことばになると、話が少し先へ進みます。手順にすると、五つです。
- 自分の波に気づく:「あ、腹が立ってきた」と知る。まず、自分のほうから
- 息をはいて落ち着く:からだから先に。深呼吸ひとつでかまいません
- 何が起きているかを思う:「いま、この子の中で何が起きているかな」。決めつけずに
- 推測をことばにして返す:「〜だったのかな」と、たずねる形で
- おさまってから聞く:下の気持ちを、一緒に探す
そのうえで、気をつけてほしいことが三つあります。
- 安全が先:人や自分を傷つけそうなときは、気持ちの話より先に、止めて守ってください
- 決めつけない:「本当は悲しいんでしょ」は、ちがうかもしれません。推測は、そっと
- ひとりで抱えない:困りが長く続くとき、家や学校で大きいときは、専門家に相談してください。発達の特性や、ほかの事情が背景にあることもあります。医療機関での相談が先になる場合もあります
これは、一つの見方です。お子さんに合うかどうかは、様子を見ながら、ゆっくり試してみてください。
参考文献と、次に見るもの
- 大河原美以(2004)『怒りをコントロールできない子の理解と援助 ── 教師と親のかかわり』金子書房
- Fonagy, P., Gergely, G., Jurist, E. L., & Target, M. (2002). *Affect regulation, mentalization, and the development of the self.* Other Press.
- ベイトマン, A.・フォナギー, P.(2008)『メンタライゼーションと境界パーソナリティ障害』狩野力八郎ほか監訳、岩崎学術出版社
- 福島哲夫(編集責任)『公認心理師必携テキスト』学研(メンタライゼーションの定義の参照)
この内容は、小学三年生の子をもつ親と臨床心理士の対話にした動画でも説明しています。二人の声は AI の合成音声で、登場する人物とエピソードは架空です。
FromU® では、子どもがいまどんな心理でいるのかを理解したうえで、その子への関わり方を具体的に助言する「親ガイダンス」という相談を行っています。高田馬場のオフィス(USpot)で、最初は親御さんだけでお越しいただけます。ひとりで抱えず、関わり方を一緒に考える場として、ご利用ください。
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