精神分析的/力動的心理療法の基礎

目次

1.精神分析的精神療法とは

精神分析の治療では①自由連想法を用いて、②精神分析理論に基づいた解釈を用いて、③無意識を順序正しく操作してその意識化を目標とすること、④洞察による自我の強化とイドの解放を主目的とする⑤数年間に及ぶ徹底的な治療を目指す。

基本原則1 自由連想法(Free Association)とは、寝椅子や180度法、対面法の形態で、「あたまに浮かんでくることを批判や選択をしないでそのまま話す」という方法。

基本原則2 禁欲規則 面接場面において現れる反社会的な願望や非倫理的な欲求は、そのまま面接外の社会では、行動化してはならないという原則。第1原則と第2原則により治療構造が守られ現実性と有効性がある。

  • クライエントに自由連想法してもらう。思い浮かぶまま話をしてもらい、それを治療者は批判も説教も指導もせず、それをそのまま聞いていく。
  • 面接を続けていると次第にクライエントは、治療契約があるにもかかわらず、その目的に反するような矛盾した行動をとることがある。すなわち、クライエントが自分の内面を理解して変容していくという仕事の妨げになる行動をすることがある(抵抗)。例えば、なかなか感情に触れるような話をせずに表面的・現実的な話に終始したり、遅刻やキャンセルをしたり沈黙が多くなったりすることに表れる。
  • この抵抗を解釈し、そしてその抵抗が取り除かれることでクライエントは忘れられていた状況や関連を話すようになり、連想がさらに進んでいく(抵抗分析)。
  • こうして自らの現在と過去の生活体験を想起することが多くなる。治療者への信頼感を持っている状態で話しつづけると、本人の中にある内的なものが出やすい状態になる(治療的退行)。するとクライエントは様々な願望・感情を治療者に向けてくることになる。そうした願望を持っても、禁欲規則があるため、面接内で話は聞いてもらって受け入れてはもらえるが欲求は満たされない。面接外でも、面接内で高まった欲求を解放することは禁じられる。
  • その願望の内容は、親子関係と性的な欲動に帰着し、想起のみならず転移という形で現れ、同様の現象は分析家にも逆転移という形で出現する。治療者に様々な感情や欲求を向けてくるというのは、例えばクライエントが治療者を優しい親のように見てきて、「自分の望んだことはかなえてくれるに違いない」という願望を持ったり、もしくは怖い親のように見えてきて「怒られるのではないか」といった感情が生じやすくなるということである。
  • それを治療者とクライエントとの間で、「私とあなたとの間でどんなことが起こっているのでしょう」等という形で「今ここで」の関係の中で取り上げて理解することになる。すなわち、転移は分析家との間で、分析家により解釈される。
  • これが解釈・直面化・明確化と呼ばれるものである。例「急に話が変わりましたね」「ずっと黙っていますね」「このときこう思ったんですね」「もう少し詳しく話してください」
  • こうした過程を繰り返していくことで、治療が展開し進められていく(徹底操作)。
  • 精神分析(標準型)の治療は、50分のセッションが週に3~5時間で、数年間に及ぶ。このため、簡易型分析療法(自由連想風の会話を30-60分程度・対面式で行う:精神分析的精神療法とも呼ばれる。)が広く行われている。

抵抗

無意識への到達を妨げるような、クライエントの言動の全て。一般には、面接により無意識の欲望をあらわにされることへの恐怖や心理的不快感から、連想過程やセラピストの解釈、ひいては治療そのものに対して敵対的・拒否的になる

直面化・質問・明確化

クライアントが回避している考えや情緒を分析家が言語化し、それに向かい合わせたり、クライエントが語ったことの主要素を簡単な表現で言い返すこと。

退行

退行(Regression)とは、ある時点においてそれまでに発達した状態や機能、あるいは体制が、それ以前のより低次な状態や機能、体制へ逆戻りすること。ときに精神分析による治療中に起こる退行は治療的退行と呼ばれる。

転移

クライエントが過去の重要人物(母親など)に対して持っていた感情を、これと何らかの類似点をもつ第3者(主に分析家)に向けること

逆転移

分析家がクライエントに対して生じる転移。転移に対して分析家自身が無意識的で非合理的幼児的な感情・態度があらわれること(分析家の抵抗)。

2.治療構造とは

・治療構造とは、精神療法におけるセッティング、治療者の態度、患者に課される要請などの手続き全体のことである。

・そもそも治療構造とは、精神分析から生まれた概念であり、精神分析治療の構造は一対一の治療者・患者関係における転移を効果的に展開させ、それを治療的に処理する舞台としての機能を持つ。禁欲規則によって患者の転移感情を治療者に集中させて、その処理を行う場である。

・こうした精神分析治療において、治療者は転移の対象であると同時に、一方では抱えの場を提供する対象としての機能も担う。すなわち、関係の中に転移を凝縮し、抵抗や防衛を操作する役割と、治療同盟を結ぶ役割の両方を担う必要がある。伝統的な精神分析の治療対象であるエディプス水準にある患者の治療では、ほどよい環境の提供はあまり重視されず、むしろ解釈的な仕事に焦点が当てられる。何故ならば、エディプス水準にある患者は基本的信頼感が破壊されておらず、治療同盟を結ぶことは容易であるからである。

・しかし、エディプス水準以下の患者の場合には、より積極的にほどよい環境を提供する治療者側からの働きかけが必要となる。換言するならば、治療構造は単に転移を展開させる舞台としての意味合い以上に、重要な「抱えの場」としての役割を担うこととなる。

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この記事を書いた人

沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師)のアバター 沢 哲司(医学博士/臨床心理士/公認心理師) 医学博士/臨床心理士/公認心理師

コメントをどうぞ

コメント一覧 (6件)

  • 二回目の視聴させて頂きました。今回は、イヤホンで視聴した為、音も非常に聞きやすかったです。前回は、視聴側の環境が整っておらず、聞きにくかったようです。
    また、沢先生の、オンライゲームの後に見た事で、より理解か深まった気がします。
    ありがとうございました。

    • ありがとうございます。これ本当にいい研修と思ってます。緩い沢に対して理論の佐藤!
      ゲームはこれですね。→https://youtu.be/g8byoWSziEg

  • とっても分かりやすかったです。
    何より、とても楽しくて、あっという間の1時間30分でした。
    白板の見えにくい部分も、丁寧に編集してあり大変見やすかったです。
    佐藤先生の、声が聞きづらいところもありましたが、資料も参考にしながら、理解することができました。

    • ありがとうございます!!!
      音は改善していきますねー
      (音は沢がとったのえすが発達論3からプロが改善してくれてます

  • 転移や防衛、抵抗など、文面で見たことがあるというくらいの知識だった私でも、実際の場面と詳しく話を聞くことで、白黒がカラーになったみたいな分かりやすさでした。うまくいかない原因のようなものを再現して、クライエント自身が実感する手伝いをすることが精神分析のセラピストの役割であるのが、知識として理解できました。いや、実感をしないと真の理解が深まらないと習ったばかりでした。でも、とても明解で面白かったです。ありがとうございました。

    • わかりやすく解説されてるので面白いですよね。
      この解説はイケてると思います。
      素敵な表現のコメントありがとうございます。

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