部活動の「好きの搾取」を考えてみる

普段私は,コーチングやトレーニング,健康関連の仕事や大学での講師などを行っています.スポーツ活動に関わっている立場から,この「好きの搾取」について,現場コーチングの最前線にいると思われる教員の部活動顧問の問題を挙げて考えてみたいと思います.

目次

好きの搾取とは


「好きの搾取」という言葉,,,なかなかなパワーワードだと思います.多くの方が知っていると思いますが,2016年にTBSで放送された「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマで,新垣結衣さん演じる主人公森山みくりが言ったセリフとしてネット上でも話題になりました.ドラマの中では,契約として家事の代金を受け取っていたが,結婚などで専業主婦が家族のためにタダで家事をすることは当然ということから「好きの搾取」という事になっていると思います.

部活動における好きの搾取

スポーツの場面において,この好きの搾取を考えてみると,中学校・高等学校の部活動が考えられます.ネット上でも散見されますが,部活動を負担と感じる教員がかなりの割合でいることや,部活動で早朝出勤(朝練)や帰宅が遅くなること,休日が部活動の指導で無くなることが問題となっています.もちろん手当は出るのですが,現行の部活動の手当は土日4時間程度で3600円という金額になっています.一般的な教員としての地方公務員である中学校や高等学校の教員は,平日は遅くまで部活動を行っても手当はつかないようです.つまり,毎週土日の2日間4時間の部活動を行った場合,ひと月の最大で3600円×2日×4週間で28800円の手当ということになります.これは時給換算にすると900円です.都道府県で差はありますが,最低賃金と変わらないわけですね.

教員ですので,部活動以外にも授業準備,生徒や保護者対応,成績処理,テストや小テストの採点業務等,様々な仕事もあるわけです.平日の時間や休日が部活動で潰れていき,無給や最低賃金程度で部活動を指導するということは,自分の時間やその他の仕事をする時間をそれだけ奪われているということになります.また,教員の長時間労働の原因というだけでなく,指導経験がない教員が部活動の指導に当たる場合もあり,教員の負担になっているわけです.つまりは,教員という立場や子どもたちのためにという考えで仕事を行っている先生たちから,教育・子どもが好きということから無償/低賃金で搾取しているという「好きの搾取」が行われているわけです.

好きが搾取される

しかしながら,別の観点からも考えてみたいと思います.一般的に,体育教員は自分の専門競技を基本とした運動系の部活動の顧問を行っています.そして,多くの体育教員は大学まで自身の教師スポーツを経験してきており,教員になってもその競技を指導したい,選手・チームを強くしたいと考えています.現在の日本では,プロコーチという職業はメジャーではなく,スポーツ指導に携わり給料をもらいたい場合は,学校教育現場,スポーツクラブ(notフィットネスクラブ),実業団チームなどに限られてきます.学校教育現場で部活動を指導したいと願っている教員から,部活動を外部指導に移行させるということは,これはある意味「好きが搾取」になるわけですね.

両方の観点がありますが,そこで文部科学省は以下のように示しています.「この休日の部活動を地域や民間に外部委託していく案を示しています.これについて,文部科学省の学校における働き方改革推進本部で,休日の部活動については民間のスポーツクラブや芸術文化団体などに運営を移行していく方策を示しましています.地域のスポーツ指導者や退職した教員などの人材を確保する一方で,希望する教員は引き続き指導できるようにするとなっています」

つまり,部活指導をしたい教員は指導できるけど,そうでない場合は外部委託もできるよ,と示しているわけです.両方の好きの搾取をうまくクリアにするための方針となっているわけです.ただ,現場のスポーツ指導を行っている教員には,外部指導という立場になるためにまた色々とやるべきことなどが増えてしまうようなのですが....

搾取されるのではなく・・・

私もコーチングを仕事の一環にしている人間ですが,好きを仕事にできることは素晴らしいことと思います.しかしながら,好きでないものをコーチングしなければならない場合や,仕事だからコーチングをせざるを得ない場合もあるかと思います.職場で上司となり部下の指導をしなければならない場合や,先輩として後輩を指導しなければならない場合もあるかと思います.他にも,苦手な対象者のカウンセリングやコンサルティングをする場合も出てくるでしょう.そのような場合,その対象/内容を好きになることや興味を持つこと,やりがいを感じられるようにすることや自身の成長を考えることなど,できることは多々あるかと思います.自身の感情等で可能性を小さくするのではなく,多方面からの見方をし,考えることで,コーチングやカウンセリングに対して,自身の成長に転換することもできるのではないでしょうか.ただし,それに見合うだけの時間や労力,賃金が重要になるとは思いますが...

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この記事を書いた人

博士(体育科学)/さまざまな分野で活用できるコーチングをスポーツの観点から発信/専門はコーチング、トレーニング、運動生理学/大学でトレーニング系・スポーツ系講義を担当/

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